週刊少年チャンピオンというG1レースの桧舞台に出走した海剣。
ゲートが開いた瞬間、勢い良く飛び出し、中間の絶妙のポジションで待機。
そして、中間からじわじわ後退し、最後方待機となった海剣、だが、最後の直線で必ず一気の追い込みを見せてくれると信じた俺。
けれど、海剣は直線に向かった瞬間、伸びるかと思いきや・・・馬群に沈むところか、最後方待機のまま、掲示板にも載らず、ひっそりと引退表明をしてしまった。
一瞬、夢を見た俺が、馬鹿だったのだろうか・・・。
平成4年の天皇賞・秋、あの橋口厩舎、レッツゴーターキンと大崎昭一の最後の追い込み勝利と海剣を重ねてしまった自分が馬鹿だったのだろうか・・・。
そして、最終話を迎えた海剣。
全20話で完結。
単行本なしで週刊連載5ヶ月。
中国の炭鉱労働者よりも過酷な労働条件で最後まで描き続けた元木先生の忍耐力は秋田書店生まれ、秋田書店育ちならではの生命力に満ちている。
しかし、(全20話もあったっけ・・・)と思う。
フルセットの20話分と海剣の20話分・・・それは、レオナルドダヴィンチの描いたモナリザと、公衆便所に油性マジックで乱雑に描かれた猥褻な落書きぐらいの違いがあるだろう。
最終話を読んで俺が感じたこと。
この漫画、やっぱり救いようがないな・・・という絶望であった。
先週、このブログに書いた海剣の流れ。
第1期 暗黒ギャグ期
第2期 激闘バトル期
第3期 青春ドラマ期
第1期は、他作品の追随を許さない圧倒的なつまらなさを機軸とした「見てはいけないものを見てしまった」快感があった。
第2期は、バトルシーンの迫力はあったものの、伸びる突きは腕が長いからという「知ってはいけないものを知ってしまった」快感があった。
第3期は、かつて海星中学の二枚看板と言われたゲンジと多聞が袂を分かった理由という「聞きたくないものを聞いてしまった」快感があった。
漫画を読む際の「見る」「知る」「聞く」という最も重要なファクターをすべて裏切り、それを「快感」に昇華させたのが海剣。
すべてが「快感」に裏打ちされていたのが、海剣なのである。
では、なぜ快感が誕生してしまったのか?
それはチャンピオンの漫画は、評価がすべて「円状」になっている点が大きい。
「おもしろい」「つまらない」が交差する座標軸ではなく、円状になって循環しているのがチャンピオン。
つまらないことはおもしろいこと。
くだらないことは楽しいこと。
聞きたくないことは聞きたいこと。
この、理論すべてを満たした稀有な作品が海剣であったという「希少性」に注目しなければならない。
最終話のテーマは、ゲンジと多聞の方向性の違い。
ゲンジの剣道は、剣道の持つスリリングな駆け引きや、技が決まった瞬間の充実感を素直に喜びたい、楽しみたいといった純粋なもの。
多聞の剣道は、常に真剣勝負。すべては勝利のために、そのために自分の煩悩を捨て、ひたすら剣道の道を実直に歩むというもの。
そして、多聞はゲンジにも桐神の推薦話が来ていたことに不快感を示す。
おそらく、多聞は全国から優秀な剣士が集まる名門・桐神への入学を機に、自分の信じた剣道の道を更に突き進もうと決心していたのだろう。
その構想の中にゲンジの姿は不必要であった。
なんとなく・・・剣道を始め、なんとなく・・・海高に進学したゲンジ。
けれど、そこには最高の仲間がいて、楽しい剣道があった。
だからこそゲンジは多聞に言ったのだろう。
「俺は俺の剣道で日本一を獲るよ」
それを目の当たりにしたスピードマスター柏木は、興奮し、やる気がみなぎってきた。
このあたりのカタルシスも快感だ。
そのカタルシスだが、一瞬にして、裏切られることになる。
感動の場面を提示した直後、見開きで描かれたシーン。
ゲンジ、マスオ、ヒロシ、沢谷果南が剣道場で竹刀をバットにして、野球に興じる姿・・・。
俺は、最終回ならではの、登場人物全員が一つのカット(記念写真のようなカット)になってエンド・・・というのを予測していただけに・・・。
この今までのストーリーの流れを否定するようなエンディングには失望した。
でも、裏切られること・・・、チャンピオンの漫画の評価は円状・・・、冷静に考えると・・・。
そう、俺は、この「最後の最後までダメだった」海剣に快感を感じ、愛を感じる。
「3代目フリオチ」認定した海剣。
それは秋田書店そのものを写す鏡だったのかもしれない。
このブログの俺のプロフィール欄を見て欲しい。
「孤独と絶望、裏切りの連続」と書いたのである。
海剣はまさにそれであった。
少年漫画の世界で、誰にも注目されず、誰にも賞賛、批判されることもなく、ひっそりと単行本もなく消えていく海剣。
それはビルの谷間に咲いたタンポポ。
黄色い花は綿帽子となり、やがて空に飛び立っていく。
どこに飛び、どこで次の花を咲かせるのか、それは誰にも分からない。
ただ、美しい花を、ビルの谷間に咲かせていたことだけが見た人の記憶の片隅に残るだけだろう。
元木先生の再登板は・・・佐渡川先生の本格復帰が決まっただけに当分ないと思うが、元木先生には、このヒットソングを捧げたい。
中森明菜「セカンドラブ」
♪恋も二度目なら 少しは上手に
♪愛のメッセージ伝えたい
次の2作品目は、少しは上手にメッセージを伝えて欲しいと思う。
ありがとう、海剣。
さよなら、海剣。
海剣を読み終え、チャンピオンを閉じた俺は、無意識に「千の風になって」を歌っていた。
♪私のお墓の前で 泣かないでください
♪そこに私はいません 眠ってなんかいません
♪千の風に
♪千の風になって
♪あの大きな空を
♪吹き渡っています
来週のチャンピオンに海剣の姿はない。
海剣を探しても、もう読めることはないだろう。
けれど、海剣は眠ってないかいない。
千の風になって大きな空を吹き渡っているのだから。
ありがとう、海剣。
さよなら、海剣。
都会のビルの谷間に咲いたタンポポ。
そのタンポポは黄色い花から綿帽子となり、大きな空に舞い上がった。
いつ、どこで、次はどんな花を咲かせるのだろう。
今は祈ろう、青い空に祈ろう。
また大きな黄色い美しい花を咲かせることができますように。
その花が咲いたら、また自分の瞳に映りますように。

